不動産仲介の現場で、入院中の親に代わって「長男」や「長女」が窓口となり、売却を進めるケースは少なくありません。書類がすべて揃い、契約も無事に締結。あとは2週間後の決済を待つだけ……。
そんなタイミングで、長男から「実は、父は認知症で判断能力がありません」と告白されたら?
今回は、仲介業者が直面する最も危険なシナリオとその対応策について解説します。
1. 「書類が揃っている」=「有効な契約」ではない
実印、印鑑証明書、権利証(登記識別情報)。これらが揃っていれば、一見すると代理権は正当なものに見えます。しかし、法律の原則は以下の通りです。
- 意思能力の欠如 = 契約は無効: 本人に判断能力がない状態で行われた委任行為(委任状への押印など)は、法的に無効です。
- 無権代理のリスク: 本人の意思に基づかない契約は「無権代理」となり、後から他の親族や本人(回復時)から取り消されるリスクを孕んでいます。
「知らなかった」では済まされないのがプロの仕事。このまま決済に進むのは、「爆弾を抱えて走り続ける」ようなものです。
2. 直ちに行うべき「3つの緊急アクション」
もし決済直前にこの事実が判明したら、以下のステップで動く必要があります。
① 本人との面談を最優先する
長男の話が「単なる物忘れ」なのか「完全な意思能力喪失」なのかを見極める必要があります。病院へ出向き、司法書士同席のもとで本人面談を行いましょう。
- 自分の名前・住所・生年月日が言えるか
- 「自宅を売ること」「代金を受け取ること」を理解しているか
ここで司法書士が「不可」と判断すれば、その日の決済は不可能です。
② 司法書士への事実共有
決済を担当する司法書士には、今すぐありのままを伝えてください。司法書士は登記の専門家として、当日必ず本人確認を行います。直前でひっくり返るよりも、今共有して対策を練るのがプロとしてのリスク管理です。
③ 買主への誠実な報告と協議
「隠して進める」のが最悪の選択です。後に無効が発覚すれば、買主は所有権を失い、仲介業者には莫大な損害賠償が請求されます。事情を話し、スケジュールの延期、あるいは「白紙解約」を含めた協議を急ぐべきです。
3. 今後の解決ルート:成年後見制度の検討
もし本人の判断能力がないことが確定した場合、唯一の法的解決策は「成年後見制度」の利用です。

まとめ:仲介者に求められる「勇気ある踏みとどまり」
「せっかくまとまった契約を壊したくない」という心理が働くのは当然です。しかし、認知症リスクを見過ごした取引は、将来的に売主・買主・仲介者の全員を不幸にします。
「おかしい」と思ったら、決済前でも立ち止まる。 これこそが、プロとしてお客様の財産と権利を守る唯一の道です。
ぱせさぽより
相続は「旅立った後の家族」への思いやりですが、後見制度は「自分らしく生き切るため、そして家族を困らせないため」の知恵です。
是非知っていていただきたく、今回このようなパターンをご案内しました。



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